執筆:いっすい(歌声研究家。大学で歌唱音声研究を専攻し、ミックスボイスの研究で修士号を取得)

歌声の生成の仕組み

本記事では、歌声が生成されるプロセスを追いながら、歌声の生成される基本的な仕組みを学んでいきます。

声の生成の仕組みを知ることで、より根拠のあるボイストレーニングが可能になります。

音声生成のプロセス

歌を歌う時、まず、息を吸います。そして、肺から押し出された空気が、声帯にぶつかります。

声帯は、送られた空気によって、閉じたり、開いたりを繰り返します。こうして、声帯で、声の元となる声帯音源波が生成されます。

頭と首の断面の図。喉の奥にある声帯の位置をオレンジ色で示している。

この声帯音源波は、実はブチブチとしたブザーのような音で、私たちのイメージする歌声とは程遠い音です。

声帯から発せられたこの声帯音源波は、喉を通過し、口の中や鼻の中に到達し、口や鼻から放射されます。この、声帯から口や鼻までの声の通り道を声道といいます。

頭と首の断面の図。声帯から喉、口の中、鼻の中までの声の通り道(声道)を水色で示している。

声道を通る音源波は、声道において歯や舌やほっぺたなどにぶつかり反射を繰り返します。それにより、声帯音源波の音色が変化し、そして唇から音波が放射されます。

こうして、初めて私たちのイメージする歌声になります。

つまり、歌声は、以下のようなプロセスで生成されます。

  1. 肺から呼気が送られる
  2. 声帯が振動し、声帯音源が生成される(音源)
  3. 声帯音源が、口腔や鼻腔などを通過し、声道の共鳴特性が付与される(フィルタ)
  4. 口唇から放射される

これらのプロセス経て、歌声は生成されます。

このように、発声のプロセスを、声帯で発生する「音源」と、声道によって付与される特性「フィルタ」に分離して考える考え方を「音源フィルタ理論」「ソースフィルタ理論」と呼びます。

歌声生成のプロセスの概要を掴んだところで、今度は声帯音源に声道の共鳴特性が付与されるプロセスについて、より詳しく解説します。

声帯音源波の音響的特徴

声帯音源波の周波数特徴をみてみましょう。声帯音源波は、下図のような周波数特性を持っています(周波数特性とは?という方は、こちらの記事を参照ください)。

声帯音源波の周波数特性のグラフ。横軸は周波数、縦軸は強さで、等しい間隔で並ぶ線が周波数が高くなるほど低くなる。

声帯音源波、特定の周波数でピークを持っており、この1つ目のピークを基本周波数(F0)と呼びます。基本周波数(F0)は、いわゆる「ピッチ」や「声の音高」に対応し、F0が高いほど、高い声になります。

声帯音源波の周波数特性のグラフ。いちばん低い周波数の線(基本周波数F0)を色を変えて示し、その上に倍音の線が並ぶ。

そして、声帯音源波は、その2倍の周波数、3倍の周波数、4倍の周波数・・・というような、基本周波数の整数倍の周波数でも強いパワーを持ちます。これを、基本周波数の倍音と呼びます。

声帯音源波の周波数特性のグラフ。F0とその2倍・3倍・4倍の線に、F0・2F0・3F0・4F0の印を付けている。

声帯音源波の倍音成分のパワーは、高次(図の右の方)になるほど、減衰していきます。

声道の音響的特徴

続いて、声道のもつ音響特性をみてみましょう。

声帯音源波は、声道を通ることで、その周波数特性が変化します。つまり、声道がフィルタとして働きます。

声道の周波数応答(声道に、フラットな周波数特性の音源を入力したときに、どのような特性が付与されて出力されるかを表す応答、つまり、声道の音響的な特徴)は、以下のようになります。

声道の周波数応答のグラフ。横軸は周波数、縦軸は強さで、なめらかな曲線にいくつかの山があり、高い周波数ほどゆるやかに下がる。

この周波数応答は、声道の形状に大きく影響を受けるので、舌の位置や顎の位置、喉の開き方などによって、その特性も大きく変化します。

そして、この声道の周波数応答のピークをフォルマント周波数といいます。周波数の低いピークから、第一フォルマント(F1)、第二フォルマント(F2)…と呼びます。

声道の周波数応答のグラフ。4つの山(フォルマント)に、低い方からF1・F2・F3・F4の点線を引いている。

声の音響的特徴

先ほどの声の生成プロセスでみたように、声帯音源波が声道を通過することで、声帯音源波に声道の共鳴特性が付与されます。つまり、最終的に口から放射される声は、以下のような特性を持った音声になります。

口から出る声の周波数特性のグラフ。倍音の線の高さが、重ねて描いた声道の周波数応答の曲線に沿って変わる。

このように、音声の生成のプロセスを理解すると、実際の音声の周波数特性をみた時に、どの特性が何の影響を受けているのか、理解することができるようになります。

Voickの詳細分析機能では、歌声の周波数特性を見ることも可能です(※)。

Voickの詳細分析の画面。歌声の周波数特性が、1000Hz〜4000Hzの目盛りの上に表示されている。

実際に、声を高くすると、声帯音源波の基本周波数が上昇します。また、口の開き方を変えると、フォルマントが変化します。

どのような発声をすると、どのような音響的特徴を持った声になるのか理解できるようになると、声への知見が深まり、より効果的なボイストレーングが可能になります。

是非、いろいろな発声を試し、声を研究してみましょう。

※詳細分析機能は、プレミアム会員限定の機能です

本記事のポイント

  • 声は、声帯で発声した声帯音源が、声道を通ることで生成される
  • つまり、声帯音源に、声道のもつ音響的特性が付与されて、声となる
  • 声帯音源は、ブザーのような音で、高い周波数になるほどパワーが減衰するような特徴を持っている
  • 声道の音響的特徴で、とくにピークをもつ周波数を「フォルマント周波数」と呼ぶ

声区について

歌を歌うにあたって、様々な音域をスムーズに歌えるようになることはとても重要です。声区のコントロールができるようになると、幅広い音域で歌を自由に歌うことができるようになります。本記事では、ミックスボイス、ヘッドボイス、チェストボイスといった基本的な声区について、その特徴を生理的側面、物理的側面から説明します。

声区の基礎歌声の理論

声帯の生理学

歌声の元となる、声帯音源波を生成する声帯の構造を学ぶことができます。ボイストレーニングにおいて、声帯の基本的な生理学的構造を理解しておくことは非常に重要です。喉頭の構造は非常に複雑ですが、シンプルなイラストを用いて説明することで、構造とその役割を極力シンプルに、わかりやすく説明しています。

歌声の理論発声の生理学

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