声帯の振動パターン

                                      
                      

本記事では、発声時に声帯がどのように振動しているかについて学びます。声帯の振動パターンは、音色に大きく影響します。声帯の振動パターンの特徴を学ぶことで、声についてより深い洞察ができるようになります。

声帯振動の仕組み

声帯は、肺から送られる呼気によって振動します。声帯の振動は、自励振動(振動に合わせた力が加わらずとも、発生する振動)であり、声帯自身の力によって振動するのではなく、呼気という外力によって振動します。

閉じた声帯に対し、呼気がぶつかると、声門下圧が上昇します。声門下圧が一定の圧力を超えると、声帯が開き、声帯振動が始まります。

声帯が開くに伴い、声帯間を通過する空気の流量、流速が増加します。すると、声帯間の圧力が下がります。すると、ベルヌーイの法則が働き、声帯に対し、内側の力が働きます。また、声帯には弾性があるため、元に戻ろうとする力も働き、声帯は内側に向かい動きます。

そして、声帯は再び接触し、閉じられます。すると、再び声門下圧が上昇し、声帯が開かれます。

これを繰り返すことで声帯は振動し、音源波を生成します。

ややこしいですが、つまり、声帯は、手を振るように自力で動かしているのではなく、呼気によって、声帯の弾性とベルヌーイの法則という物理現象が働くことで振動している、ということです。

声帯振動の姿

上記で確認したように、呼気により、声帯が開閉を繰り返すことで声帯が振動します。

実は声帯振動は横方向の開閉に加え、前後方向、上下方向での振動の位相差(ずれ)が生じています。

左から、声帯の横方向の開閉、前後方向の位相差、上下方向(厚み)の位相差

つまり、単純な2次元的な振動ではなく、3次元的な複雑な振動です。

特に、声帯の上下方向(厚み)での位相差の現れ方は、声区によって大きく異なり、聴感上でも大きな違いを生みます。

歌唱について考えるに当たって、声帯の上下方向の位相差について知っておくことが大事です。

以下は、上下方向の位相差を表す声帯振動のイメージ図です。

左上から、右下に向かって、声帯の形状が変化している様子

声帯の下部から接触が始まり、声帯上部まで接触し、下部から離れて、最後に上部が離れる、というような振動パターンになっていることがわかるかと思います。

この、声帯の上下方向の位相差は、声帯に厚みがある、かつ、声帯のカバーが十分に緩んでいる場合、すなわち声帯筋(TA)が優位に働いている場合で顕著に現れます。

呼気の音響エネルギーへの変換効率で見ると、この振動パターンは非常に効率のよい振動パターンと考えられており、この声帯振動パターンが、力強い発声に繋がります。

一方、輪状甲状筋がしっかりと働いている場合、声帯は長く伸び、カバーに緩みがなく、硬い状態になります。すると、声帯の接触面積が小さくなり、厚み方向の位相差は少なくなります。この振動パターンは、軽い、薄い印象の発声に繋がります。

声帯筋(TA)が優位な発声における声帯形状のイメージと、輪状甲状筋(CT)が優位な発声における声帯形状のイメージ

振動パターンによる周波数特性の違い

この声帯の振動パターン違いは、周波数特性にも現れます。以下は、声帯筋(TA)が優位な発声における周波数特性のイメージと、輪状甲状筋(CT)が優位な発声における声帯形状のイメージ図です。

声帯音源波の周波数特性は、高周波数帯域になればなるほどパワーが減衰するような特徴を示します。

声帯筋(TA)が優位な発声の場合、すなわち、声帯振動において、上下方向に大きく位相差が生じる発声の場合、声帯音源の周波数特性の高周波数に向かっての減衰の傾斜は滑らかですが、輪状甲状筋(CT)が優位な発声の場合、高周波数帯域で大幅に減衰します。

一般に、「詰まった歌声」「強い歌声」の場合は、声帯音源は上記の左図のような周波数特性を持っており、「優しい歌声」「繊細な歌声」の場合は、右図のような周波数特性を示します。

自分の歌声の周波数特性を分析することで、自分の出したい歌声の発声のヒントを見つけることができるかもしれません。

本記事のポイント

  • 声帯振動は横方向の開閉に加え、前後方向、上下方向での振動の位相差(ずれ)が生じる複雑な振動である
  • 地声は声帯が厚く、裏声は声帯が薄く接触する
  • 声帯振動パターンによって、声帯音源波の周波数特性が異なる